2015.01.27
日本の固定価格買取制度をめぐる問題について、
ソーラーパワーネットワークはカナダの経験から運用見直しを提案します。
日本の再エネ論争は数年前のカナダとそっくりです
現在、再生可能エネルギーについてさまざまな課題が指摘されています。
接続可能量の限界の問題、自然エネルギーの供給が不安定だという問題、
また送電網増設には国民負担が増えるといった問題です。
既存の電力システムを継続させた場合と
今後再エネを増やした場合との経済性も比較検討する必要があります。
これほどの課題があれば論争となるのも当然です。
再エネ反対派、推進派それぞれが自分たちに都合のいい真実の一部を語っているだけからです。
日本の再エネ論争はドイツとカナダなど諸外国が数年前に経験してきた論争とそっくりです。
ドイツやアメリカ、カナダのオンタリオ州でも、
行政は再エネを一気に普及させるシステムを構築しようと、
まずメガソーラー(発電量が1メガを超える大規模太陽光発電所)を制度の中心に据えました。
当然、再エネ・バブルが起こり、その結果、反発や批判があいつぎました。
いま世界で「再エネ」といえばメガソーラーではありません
この経験から、いまドイツ、カナダ、アメリカで
「再生可能エネルギー」といえば
メガソーラーではなく、分散型電源、
つまり電力消費地にほど近い地域の屋上や地上型の太陽光発電施設を使って
少量の発電をする地産地消モデルが想定されるようになっています。
日本が前提とするメガソーラーや巨大風力発電といった
遠隔地で大規模に発電される電力ではありません。
いまの日本での再エネ批判はメガソーラー型発電に対する批判です。
電力の地産地消を進める分散型電源であればこれらの批判はあてはまりません。
試行錯誤のすえ、世界が学んできたのは、
一口に再生可能エネルギーといってもいろいろあるということです。
たしかに再エネはどの発電形式でもクリーンな自然エネルギーです。
しかし送電網の過密状態を解消し、電力を安定供給し、
そればかりか原子力発電や火力発電といった従来型の大規模発電所の発電
およびその都市部への送電コストを合わせた発送電コストよりもコストを
抑えられるのは分散型電源だけなのです。
カナダではメガソーラーはFITの対象外です
現在、カナダ・オンタリオ州の固定価格買取制度(FIT)は第4期に入りました。
第4期FITが対象にするのは、オフィス街や住宅地の隣接地域にある
屋上・地上型の小規模太陽光発電施設です。
オンタリオでは
2010年以降、メガソーラーや巨大風力発電所はFITの対象外となりました。
将来、地方(遠隔地)で巨大な再エネ発電所が建設されたとしても、
その電力は炭坑などその地域で地産地消できるようなものだけに限られるはずです。
つまり国民の費用負担が増え、
頻繁にメンテナンスが必要な長距離型の送電網を使う必要はないのです。
オンタリオだけでなく、
ドイツ、アメリカのカリフォルニア州やロングアイランド州をはじめ、
多くの地域が、
現在、都市部のビル群にクリーンな電力を供給する唯一の道は
分散型太陽光発電だと結論づけています。
分散型電源なら送電網にコストがかかりません
従来の中央集中型モデル、
すなわち、数百km離れた地域にある100MWを超える
原子力や天然ガスの大型発電所から長い長い送電線を経由して
都市部に電力が送られてくるモデルでは、
電力需要が増えれば発電所と送電網をさらに拡充せねばなりません。
一方、小規模の太陽光発電システムによって
建物内外の発電所から電力を供給できる分散型モデルならば
電力需要が増えても巨額の費用を投じて送電網を増やす必要はありません。
分散型モデルならば発電所や送電網の増設コストがかからないのです。
日本の発電所はすでに飽和状態にあり、これ以上増やすのはむずかしいでしょう。
原子力発電には安全性のリスクがあります。
天然ガス(LNG)も輸入依存リスクがあり、
日本経済にとって最善の選択肢とはいえません。
そして政府は2020年までに再生可能エネルギーを
全発電の2割にするという目標を立てています。
ところが電力会社は接続可能量は限界にあると主張しています。
太陽光や風力のメガ発電は
原子力や天然ガスに代わる有望なエネルギー源ではあるものの、
送電網不足による接続可能問題という新しい問題を生み出してしまったというわけです。
ここだけ見れば、太陽光発電は問題解決をせずに、
むしろ問題をややこしくしたという指摘は、ある意味では正しいかもしれません。
日本の固定価格買取制度のもとで認可された太陽光発電の大半はメガソーラーだったため、
そもそも存在していた接続可能容量の問題をむしろ悪化させてしまいました。
接続可能量を増やすには送電網を増設しなければなりません。
ところが送電網を新たに建設・保守する費用は発電コストの2倍かかります。
ということは、
従来の発電システムから脱皮するために再エネのメガ発電所を作っても、
新しい送電システム建設のために国民負担が過大になってしまう。
いわば、「一歩進んで二歩下がる」状態になってしまうのです。
繰り返しになりますが、
再エネへの早急な転換が求められたのは日本だけではありません。
どの国でもFITの導入以前に原子力と天然ガス発電の代替になるエネルギーを
大規模に早急に発電できる制度構築が求められていました。
オンタリオ州では大規模の石炭火力発電所の発電停止が喫緊の課題であり、
ドイツでも石炭火力発電所の削減と原子力発電の一部廃炉が政策課題でした。
現在はカナダとドイツは時間はかかったものの
サステナブルな分散型電源システムにすでに移行しています。
日本にとっての解答もここにあるとSPNは考えます。
分散型電源なら電力が安定供給できます
メガソーラーやメガ風力発電のように
電力消費地から遠く離れたところで大量の電力を作り出すと、
発電所と電力消費地をつなぐ送電線にかかる負荷は大きくなります。
晴れている日には消費できる以上の電力が流れ、
曇っている日には別の発電で補完しなければなりません。
これがメガソーラーだと補完するための電力も大量に必要になります。
供給の安定性において、従来型の電力システムよりも劣るわけです。
一方、分散型電源モデルでは、
消費地に隣接した地域の屋上にソーラー・システムを設置すれば
日照の不安定性も分散できます。
供給も安定します。
電気を使う場所に発電所があるので、
すでに行き詰まりをむかえた既存の発電システム
(原子力発電が完璧でないのはもはや誰もが認めるところです)と
送電網への依存を減らすことができます。
分散型電源による電力システムの安定性は
太陽電池の性能が向上すれば完璧になります。
もう5年もすれば電気自動車の普及とともに太陽電池の経済性が高まるはずです。
カナダの買取価格も日本と同額です
カナダ・オンタリオ州の2015年度FITの買取額は1kWあたり31.6セントです。
つまり14年の日本の買取価格、1kWあたり32円とほぼ同額です
(※1カナダ・ドル=98.5円)。
現在オンタリオ州では分散型電源が大ブームにあります。
一方、買取額が1kWあたり20セントと安いドイツでは
分散型電源はさほど普及していません。
発電・送電ともに分散型電源モデルに切り替えようとする場合は
1kWあたり30セント(円)前後という
日本やカナダの買取額は「高すぎる」とはいえないということです。
もし発電システムだけを再エネに替えるとすれば
(つまり送電システムはカウントしなければ)、
損益分岐点となる買取額は1kWあたり20セント(円)を下回れます。
ドイツ、また再エネ優遇措置のあるアメリカの一部地域の実質的な買取額はこれにあたります。
「日本の買取額は高すぎる。日本政府はソーラーに補助金を支払いすぎている」
という批判は正しい。
なぜならば
日本の固定価格買取制度が前提にしている太陽光発電は
メガソーラーだからです。
メガソーラーは発電方式を替えるだけで、送電網の部分は手つかずです。
経産省は電力を1kWあたり32円で買っているばかりか、
本来電力会社が負担すべき送電システムの費用負担までしているわけです。
経産省への提言ーーメガソーラーから分散型電源への移行を
1)
日本も諸外国のように、
メガソーラーでなく分散型電源に限定した固定価格買取制度を採用すること。
住宅用FIT(10kW未満)は現状のまま継続し、
また、産業・商業・公共施設については
該当の建物・敷地の現状の接続可能量までを買電対象とすること。
つまり、FITの許認可を現在のように発電量(kW)ではなく、
建物・敷地自体の接続可能量に応じて決定するのが望ましい。
接続可能量は建物・敷地に電力を送る引き込み線の容量によって決まる。
500kW未満の建物もあれば、工場のように引き込み線の規模が大きい施設ならば
何十棟もの建物に送電できる。
たとえば現時点で接続可能量が50MWの敷地に対しては
50MWまでの発電設備を認可すればよい。こ
のように既存の送電網を前提とした再エネ・システムを構築すれば、
電力の供給過剰問題を解決することができます。
2)
分散型太陽光発電を早急に、大規模に普及させるには
固定価格買取制度を存続させるのが一番です。
入札方式は必要ありません。
ソーラーパワーネットワーク株式会社
CEOピーター・グッドマン